●TPPと共済(番外編)
〜「TPP大筋合意」を受けて〜

国公共済会専務理事 松渕秀美

合意ができていないのは明白

 日米など12か国は、10月5日に環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を発表しました。
 日本政府は、「21世紀型の新たなルールの構築」「中小・中堅企業、地域の発展への寄与」「長期的な、戦略的意義」があると宣伝していますが、その実際はどうでしょうか。
 多くのマスコミは、「野菜やお米などが安くなる」とメリットを強調して報道していますが、未だテキストの全文が公表されていないのにも係わらず大筋合意を歓迎していいのでしょうか。
 そもそも「大筋合意」なるものが、「合意できなかったので、大筋で合意した」ように装うということではないでしょうか。
 10月30日に、日本経済新聞社が内外の交渉関係者や専門家を招いて緊急シンポジウムを開催しましたが、その鼎談の中で合意が長引いた最大の原因である知的財産分野について、元USTR次席代表のアラン・ウルフ氏は「薬のデータ保護期間をアメリカは5年と思っているがオーストラリアは8年と捉えている」と発言し、駐日オーストラリア大使のブルース・ミラー氏が大きく頷く場面がありました。この一事をとっても、TPP交渉の合意はできていないことは明白でしょう。

詭弁を弄する政府

 この緊急シンポジウムで特別公演をおこなった甘利TPP担当大臣は、「日本がTPP交渉合意の大きな原動力となった」「日本のリーダーシップで交渉をまとめることができた」と自画自賛し、「アメリカに真正面から対決できるのは日本だけ」と期待され「日本は途上国の意見を取り上げアメリカにあたってくれた」などと自慢話を繰り広げました。TPP交渉に参加するために牛肉の輸入基準を緩和し、オバマ大統領に「自動車」と「保険」分野について日本は努力しますと安倍首相が約束した(入場料を支払った)ことなど忘れてしまったようです。
 さらに甘利大臣は、「政府や地方発注の入札に外国企業が来ても、外国企業が日本企業並みになるだけで日本が変わることはない」「知的財産も、権利侵害を感じていることが明らかな場合に限り第三者が訴えることが出来るのであって、新たな創作活動やクリエーター誕生の機会が奪われると言うのは全くのデタラメ」「ISDSは海外投資する日本企業を守るためのもの」「健康や生命を守るため科学的根拠を今まで以上に厳しくWTO基準を守る」「TPP交渉に混合診療や健康保険制度などは全く入っていない、危ないとあおる人がいるけれど全くない」など詭弁を弄し、反対意見を意識した発言が目立ち、「サーバーを相手国に置かなくても日本に居ながらにして海外展開できる」と中小企業を意識した話もありました。
 これは、日本国内外のTPP交渉反対運動の反映といえますし、運動は大きな広がりをみせています。

阻止のたたかいはこれから

 安倍政権は、「大筋合意」後は国内対策だと宣伝していますが、TPP協定の発効のためには、まず参加国の言語での協定書(案)を作成する必要があります。そして、各国政府がこの協定書(案)に署名し、全参加国の議会承認などの国内手続きを経ることになります。
 安倍首相は、安保法制の成立後に「今後も国民の皆さまに誠実に粘り強く説明を行っていく」と言いながら、説明の場である臨時国会を開こうとせず、TPP交渉の「大筋合意」についても国会で議論ができないまま説明責任を放棄した恰好となっています。
 すなわち、大筋で合意したように見せかけてはいるものの、TPP交渉の詰めの作業は残っているし協定書(案)全文もまだ公表されていないので、どんな問題点があるのか明確になっていないのが現状です。
 そのうえTPP交渉で医療保険を含む社会保障(保険)については留保(対象外)されていますが、アメリカとの2国間交渉でどうなっているのかは全く不明です。
 それでも「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とする」こととした国会決議違反は明らかです。
 今回の「合意」の情報を公開させ、みんなでTPPの学習会もして「だめなものはだめだ」と国民と連携した力で運動を広げれば、TPPは阻止できる展望が生まれます。たたかいは、これからと言っていいでしょう。
※TPPシンポジウム発言は筆者のメモからです。