●第6回TPPと共済 国公共済会事務理事 松渕秀美

TPPは一体誰のためのものなのか


 みなさんは、7月21日投票の参議院選挙の結果をどう受け取ったでしょうか。TPPに関する公約を大幅に後退させた自民党が65議席を確保し、公明党との連立政権は安定したものになりました。いっぽう、東京選挙区では反原発・反TPPの吉良よし子候補と山本太郎候補が自民党の武見候補よりも得票を得て当選するという結果でした。マスコミが「ねじれ解消」を争点かのように報道するなか、京都・大阪選挙区の結果とあわせてみると都市部の有権者は、平和憲法を守る、原発依存からの脱却、雇用の安定などとあわせてTPP問題を重視した側面がうかがえます。

4年間は全ての情報が秘匿に

 さて、日本は100人を超える交渉団をマレーシアに派遣して、7月23日午後から正式にTPP交渉のテーブルに着きました。その交渉に先立って、日本政府はTPP交渉の協議内容について秘密を守る「秘密保持契約」書に署名をしています。この「秘密保持契約」により、交渉内容は一切国民に知らされないまま進められます。そればかりか、協定発効後4年間、妥結しなかった場合でも最後の会合から4年間、交渉文書、各国の提案、関連資料などは秘匿されることとなっています。国民的な議論なしに、ごく一部の人たちだけに、この国の将来を委ねることとなります。事の重要性に気がついたときには後戻りのできない袋小路に入り込んでいる可能性があります。一日も早い離脱が必要ではないでしょうか。

日本郵政がアフラックの代理店に

 そして、TPP交渉参加に合わせて、またしても日本は米国に大幅に譲歩しました。7月26日、日本郵政と米アメリカンファミリー生命保険(アフラック)ががん保険事業で提携すると正式に発表しました。現在、約1000の郵便局でアフラックの商品を扱っていますが、順次、全国2万の郵便局と約80のかんぽ生命保険直営店で商品を販売するとしています。日本郵政は、日本生命と共同でがん保険の開発をしてきましたが、2013年4月12日の日米首脳合意にあわせて、日本政府はかんぽ生命保険によるがん保険の発売を認可しないという方針を打ち出したばかりです(米国通商代表部が作成した4月12付文書には「日本は、かんぽ生命にがん保険や単品の医療保険の認可をする考えがないことを一方的に表明した」と記述されています)。日本政府は、TPP交渉を円滑にすすめる思惑があることから、アフラックとの提携実現は確実とみられています。日本生命と共同開発するのはダメで、アフラックの商品を売るのなら認可するという日本政府の対応は、日本郵政をアフラックの代理店にするようなものです。そもそも米国の保険会社は日本での収益力が高く、アフラックは営業利益の8割、米プルデンシャルは5割弱を日本で稼いでいる(7月25日付日経)のです。入り口段階で、こんなに譲歩して本格交渉どんな難題が突きつけられるのか、TPPはまるで日本から利益を吸い上げ米国に送り込む装置のようです。ついでに言えば、アフラック日本代表のチャールズ・レイク氏は、元米国通商代表部の日本部長です。本紙4月号で『日本の保険市場をアメリカの保険資本に開放させようと、計画的・段階的、強圧的かつ執拗に要求してきた』と書きましたが、的を射ていると思いませんか。

日本の農業の市場化が目的

 新参議院議員の渡辺美樹氏は、朝日新聞の取材の中で『首相に何を期待されたのか』と質問され「農業だ。TPPがすすんで行く。ワタミファームをやっていたので僕はどうしたら農業が勝てるかわかっている。農地は企業が取得すべきだと思うし、農業は株式会社化すべきだ」と答えています。TPPを推進派の人たちは、現在の稲作の耕作面積は細切れになっており効率的な土地利用となっていない、農地を集約し、単位面積当たり収量の多い品種を導入することで生産費用を大幅に削減し外米との競争力を維持すべきだと、TPPを好機として農業の体質強化・構造改革をすべきだと主張しています。両者の主張は、日本の農業を市場化させるということで完全に一致しています。

国家間の自由貿易協定で利益の大半は株主の懐へ

 米国は1970年代の終わりから「食糧は武器」という主張を掲げています。食糧供給の企業所有を外国に「民主主義」「強い農業」「財政再建」「人道支援」の名で押し付け、農地に輸出用GM(遺伝子組換)作物の大規模単一栽培を導入させ、小規模農民を追い出し株式会社が動かしていくという戦略をとっています。その一つの方法として国家間の自由貿易協定を利用しています。NAFTA(米国、カナダ、メキシコの自由貿易協定)によって、メキシコには大量のGM種子が流れ込みました。バイオ種子企業は、メキシコに古くからある原種トウモロコシや豆類の一部遺伝子を操作してから商品化・新製品として次々と特許を取得し独占していきました。知的財産権により一度特許を認められると、その種子は特許を持つ企業のみが販売できることから、メキシコの農民は先祖代々受け継いだ作物を栽培するため特許料を支払うか、その種子を購入しなければならなくなりました。米国の安価なトウモロコシに対抗するため、メキシコ政府がおこなっていた補助金制度も、海外投資家にとって不平等な国内法であるとしてすぐに廃止させられました。カナダでは、外資に開放された農業に企業が次々に参入し、土地を買い上げた大規模農産業がGM穀物の単一栽培を始めたため、農業の生産量と輸出量は増えたものの、その利益のほとんどが株主の懐に入り、末端の契約労働者はNAFTA導入前より収入が激減するという事態になっています。「体質強化」「構造改革」などという言葉に騙されることなく、物事の本質を見極める眼を養うことが大切です。

 この「TPPと共済」シリーズ(共済以外の部分が多いという批判は甘んじて受けます)は、当初4〜5回程度で終了するつもりでしたが、情勢が刻々と変化するため思いがけず長くなりました。次号では、いのちと健康に直結する医療と薬価問題を取り上げたいと思います。TPPの果実を享受するのは誰なのか、私たちの財産である自主共済をはじめ、いのちと暮らし、健康と生活を守るため99%が手を取り合うときではないでしょうか。そして、私たち国公労働者の役割について考えたいと思います。 (8月6日入稿)

参考文献
朝日新聞、日経新聞、日本農業新聞、赤旗
ニュージーランド外務貿易省HP
(株)貧困大国アメリカ 岩波新書 堤未果著