●第4回TPPと共済 国公共済会事務理事 松渕秀美

韓米FTAから見えるTPPの未来図は


 2011年10月13日から15日にかけて、農民連は世界的な農民運動組織であるビア・カンペシーナと共催で「FTA・TPP戦略会議」と「国際フォーラム」を韓国、インドネシア、タイの代表を迎えて日本青年館で開催しました。この会議で、韓国全国農民会総連聯盟のイ・チャンハンさんは「韓国と日本の民衆は同じ危険にさらされています。だから、TPPに対抗するために、韓米FTAをよく研究してください」と訴えました。そこで、韓米FTAの現状を通して、日本がどのような危険にさらされようとしているのか見てみましょう。

FTAによる効果は疑問

 韓米FTA(以下、単に「FTA」と記載)は韓国内で反対運動が盛り上がりましたが、残念なことに2012年3月15日に発効してしまいました。韓国政府は、FTAによって今後15年間、対米輸出は年平均12億8、500万ドル増加するだろうと発表していました。2012年4月から2013年1月までの対米輸出額(47、850、011千ドル)を前年同期間(47、732、489千ドル)と比べると1億1、752万ドルほどの増加であり、韓国政府が宣伝するほどの効果は出ていません。なお、2012年3月15日から2013年2月末までの対米貿易収支は約172億ドル(前年同期間比)の黒字で約39%増になったと報道されています。これは、オレンジやチェリーなどの果物の輸入は急増したものの、米国を襲った旱魃で米国産トウモロコシの輸入が大幅に減少したことや韓国内畜産物の供給過剰などが理由として考えられるとのコメントがあります。発効後1年そこそこで、FTAの効果や弊害を判断するのは早計といえますので、長期間にわたって検証する必要があるようです。

国の主権さえも骨抜きに

 FTAを履行するために、韓国の主権にかかわる問題も発生しています。韓国政府は、関税法や行政手続法、著作権法、特許法、など63の法律・政令等を改正する必要がありました。これは、韓国の政策主権がFTAによって制約・侵害されていることの表れといえます。さらに、一年ではなく二年次、三年次と制度変化を規定しているため、さらに多くの法令変更が必要となっています。
また、韓国政府はFTAによってアメリカの反ダンピング規制から脱することができると宣伝していましたが、2013年1月にサムスンとLG洗濯機にそれぞれ11%と13%の反ダンピング相殺課税を付加してきました。アメリカの保護貿易はむしろ強化されたようです。
そして、韓国の国民健康保険にとって由々しき問題となっているのが、薬価問題です。より効果のある薬を国民健康保険の対象として安価に提供するのが政府の役割のはずです。しかし、FTA交渉の際、アメリカの製薬会社が異議を申し立てた結果「独立した再審機構」で韓国政府の決定を再判断することができるようになりました。米国は、この機構について、国民健康保険に納入する薬の資格と価格を再審査し、その再審決定は拘束力がなければならないと主張して、FTA解釈紛争が起きている状態です。もし、米国の主張が通れば、韓国の国民健康保険が取り扱う薬の種類と価格を決定する権限を韓国政府は手放すこととなってしまいます。

郵便局の新商品は不可に

 さて、本稿の主題である保険(共済)はどういう状況になっているでしょうか。アメリカの保険会社には、海上運送保険や航空保険、再保険およびこれらの保険に関する保険ブローカーの事業に参入し、保険につながる損害査定、事故危険評価、保険商品開発および販売諮問を、韓国に事務所を構えなくてもできるようにし、保険サービスを提供する投資者が必要とする外貨保有高要件を緩和しています。
その一方で、韓国の郵便局には変額生命保険、損害保険、および退職保険を含む新しいサービスを提供できないようにしました。日本ではTPPの入口段階で、かんぽ保険によるガン保険の発売を認可しないという事態になっているのはご存知のとおりです。

共済も民間生保と同じ土俵に

 また、農業協同組合や水産業協同組合、信用協同組合のような分野別協同組合がおこなう保険(共済)サービスには、民間保険会社より有利となる利点を与えてはならないと規定しています。そして、協定発効3年以内に、協同組合の保険サービス(共済)を金融監督委員会が監督できるようになっています。日本の共済に対するアメリカの要求は、「年次改革要望書」で「共済と民間競合会社間の公正な競争確保のため、すべての共済事業者に民間と同一の法律、税金、セーフティーネットのコスト負担、責任準備金条件、基準および規制監視を適用する」よう具体的に記述しています。共済だけ取り出しても、韓国と日本の民衆は同じ危険にさらされているというイ・チャンハンさんの指摘は正鵠を得ています。
さらに、郵便局と協同組合が民間保険会社と同等の競争が保障されるように、韓国とアメリカは、別途、保険(共済)に関するワーキンググループを設置することとしています。ここでの問題点は、設置されるワーキンググループに韓国の郵便局と協同組合は入れず、事実上、米国に判断権があるということです。協同組合の加入者はもちろん運営者さえも関与できない仕組みを持ち込むアメリカのしたたかさを見せつけられる思いです。
あらためて、薬価と保険(共済)に限らず、すべての事柄についてアメリカ(=多国籍企業)の思惑通りに相手国を牛耳ろうとする手段としてFTAやTPPが利用されていることに着目する必要があるのではないでしょうか。

参考文献
「農民」NO65 農民運動全国連合会発行
「恐怖の契約 米韓FTA」宋基昊(ソン ギホ)著 農文協ブックレット
「韓米FTAに学び、TPPの問題点を考える学習会」資料 講師:宋基昊氏