●第2回TPPと共済 国公共済会事務理事 松渕秀美

ついに交渉参加を発表、国民生活に影響は


 3月15日安倍首相は記者会見で、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃を前提としないことを確認した」として、自民党の6項目の選挙公約に反してまでTPP交渉に参加することを発表しました。
 この参加表明にあたって、自公政権(民主党も)は、TPPに参加すると国民生活にどんな影響があるのか全くと言っていいほど説明がありませんでした。それは、参加表明の記者会見でも同様で「日本だけが内向きになってしまったら、成長の可能性もない。企業もそんな日本に投資することはないでしょう。TPPはアジア太平洋の「未来の繁栄」を約束する枠組みだ」「TPPがアジア太平洋の世紀の幕開けとなった。後世の歴史家はそう評価するに違いない。その中心に日本は存在しなければならない」と、TPPに参加さえすれば万事うまくいくかのように大変勇ましくはありますが、極めて情緒的なものです。

社会保障の充実とは真逆に

 ましてや「息をのむほど美しい田園風景。日本には朝早く起きて汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統がある」と言うにいたっては噴飯ものではないでしょうか。美しい田園風景がそこなわれたのは、長年、自民党がおこなってきた減反をはじめとする農業・食料政策の結果にもかかわらず、そのことの分析なしにどうやって守るというのでしょうか。そして「自立自助を基本としながら 〜中略〜 社会保障制度を守る」と言われても、安倍首相のもとで発足した社会保障制度改革国民会議では「負担・給付の両面で世代間・
世代内の公平を図る」という名目で全世帯への負担増が狙われているではありませんか。国民皆保険や国民皆年金という世界に誇る日本の医療と年金制度は残っても、骨抜きにされたのでは私たちの願う社会保障の充実とは真逆になってしまいます。

日本の保険(共済)市場開放はアメリカの宿願

 こうまでして参加表明したTPP交渉ですが、国民生活にどんな影響が考えられるでしょうか、TPP参加の入場料のひとつとなった「保険」(共済)を中心に見てみましょう。実は、「保険」(共済)に関するアメリカの要求は、昨日今日出されたものではなく、世界一保険好きと揶揄される日本の保険市場をアメリカの保険資本に開放させようと、計画的・段階的、強圧的かつ執拗に要求してきたものです。保険に関するアメリカの要求は1993年7月の宮沢首相とクリントン大統領の首脳会談にさかのぼります。この会談で市場アクセスを相当程度妨げているとして金融サービス、保険、競争政策、透明な手続き等が示され、保険分野の規制緩和を目的とした「日米保険協議」が1993年9月から開始されました。同様に、この会談で合意されたのが悪名高い「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(以下、「要望書」という)です。

保険業法の「改正」で自主共済が存亡の危機に

 1993年9月から始まった「日米保険協議」の結果、1994年10月に保険分野の大幅な規制緩和を盛り込んだ「日米保険協定」を結びましたが、その後もアメリカの要求で毎年のように日米保険協議がおこなわれました。この保険協議のなかで、算定会料率の使用義務の廃止や、第三分野といわれるガン保険など医療保険のアメリカ資本の独占が合意され、自動車保険分野ではアメリカ企業の日本進出が進行しました。当初、医療保険の独占を主張するアメリカ資本の進出に警戒していた日本の生命保険会社は、共済を市場と同等の競争にさらすことで権益が増えると判断して、金融庁に共済規制を働きかけるようになりました。金融庁は、アメリカの外圧と生保業界の内圧に屈し、オレンジ共済やベルル共済など共済の名を騙った悪徳商法から消費者を保護する名目で、2005年に保険業法を「改正」(2006年4月から施行)してしまいました。
 従来の保険業法は、保険会社を規制する法律でしたが、この「改正」により共済団体も規制の対象(労働組合の共済は、ただし書きで適用除外)になりました。そのため、全国のPTA共済や知的障害者の入院互助会、労山など山岳団体の遭難対策基金、保険医休業保障共済などなど、まじめに働く勤労市民にとって安い掛金で親身な給付が受けられる大切な組織が運営の存亡の危機に直面しました。