●第1回TPPと共済 国公共済会事務理事 松渕秀美

安倍政権下、TPP交渉参加が現実的に


 「国公共済会だより」新年号の理事長あいさつで「TPPに日本が参加すれば、アメリカの圧力で保険業法の適用となって攻撃され、つぶされるか変質を余儀なくされます」「農業だけでなく、働くものの助け合い共済や雇用、医療など国民のいのちとくらし、食を破壊するTPPへの参加を絶対に阻止するために反対の声をあげていきましょう」とTPPを取り上げたところ、たくさんの方から反響が寄せられました。
 安倍首相が国会で2月28日におこなった施政方針演説では、「TPPについては、「聖域なき関税撤廃」は、前提ではないことを、先般、オバマ大統領と直接会談し、確認いたしました。今後、政府の責任において、交渉参加について判断いたします」と簡潔に表明しました。党内の慎重派に配慮した結果、参加表明は踏みとどまったということでしょう。

アメリカに歩み寄った共同声明の内容は

 では、ワシントンでおこなわれた日米首脳会談でオバマ大統領からどのような回答を引き出したのか、日米首脳共同声明の内容を見てみましょう。共同声明のTPPに関する部分は3部構成となっており、(スペースの関係で)要約すると、1部ではTPP参加に際し「全ての物品が交渉の対象とされ」「包括的で高い水準の協定を達成していく」という基本を再確認しています。2部では日本には農産品、米国には工業製品という守りたいものがあるので「最終的な結果は交渉の中で決まる」のだからお互い「全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束」しないでおこうとしています。3部では米から要求されている自動車部門と保険部門をはじめとする懸案事項について二国間協議を継続することとしています。
 ちょっと視点を変えてアメリカ側から見ると、@TPPに参加する場合は「全ての物品が対象とされること」を日本に再確認させ、A日本は農業を、アメリカは自動車産業を守りたいことをあらためて共通認識とするとともに、B引き続き、「自動車」と「保険」について努力することを日本に約束させた声明ということになります。オバマ大統領から譲歩を引き出すどころか、安倍首相がオバマ大統領に歩み寄った内容です。

「保険」はTPP交渉の入場料

 では、なぜ「自動車」と「保険」が共同声明に盛り込まれたのでしょうか。アメリカは昨年、TPP交渉に日本が参加するには、アメリカが従来から要望していた自動車・保険・牛肉の3分野で譲歩することを求めてきたことにあります。狂牛病問題発生以降、日本が牛肉の輸入基準としてきた20カ月齢以下を今年2月1日から30カ月齢以下に緩和しました。この牛肉の輸入緩和について農業協同組合新聞は、「TPP交渉参加を認める「入場料」としてまずこの問題(牛肉)の解決を求めた」ものであり、「米国からの圧力ではなく科学的根拠に基づき十分に検証し、消費者が納得できる議論が必要だ」と報道しています。残念ながら牛肉の輸入基準が緩和されたため、残りの入場料として「自動車」と「保険」が今回の共同声明に盛り込まれたのです。

国民生活に大きな影響

 マスコミは、「聖域なき関税撤廃」が確認されたことをもってTPP交渉参加が既定路線であるかのように報道していますがどうでしょうか。TPPは、関税が撤廃されるので輸入品が安くなる、外国に輸出するときも税金がかからないので物を売りやすくなるという単純なことにとどまりません。非関税障壁の撤廃が求められていますので、牛肉のように健康と食の安全基準をはじめ、環境基準、雇用・労働のルール、商取引や金融にかかる規制などの交渉がおこなわれますので、国民生活の全てにおいて影響が、(それも思いもしなかったような影響が)予想されます(「テキスト」と呼ばれる協定の素案は数千ページの分量に上るといわれています)。
 実際、どのような影響があるのか(考えられるのか)、これまでのアメリカ側の要求や米韓FTA(米国と韓国の自由貿易協定)、NAFT(米国、カナダ、メキシコの自由貿易協定)を通して次回以降、検証していきます。