●第8回TPPと共済 国公共済会事務理事 松渕秀美

TPPを契機に1%にさらに富が集中


いよいよ消費税が8%に

 安倍首相は10月1日、消費税を来年4月から8%に引き上げることを決定しました。その記者会見の中で「消費税収は社会保障にしか使いません」と明言しました。消費税の3%増税で2014年度は約5兆円、それ以後は年間約8兆円の増収が見込まれています。社会保障4分野で使われる予算は、国と地方を合わせて約38兆円といわれています。消費税の増収分を社会保障分野に充てると相当の改善が期待できるところです。
 ところが、一向に社会保障の充実策は聞こえてきません。それどころか、復興法人特別税の廃止や法人税の実効税率の引き下げ、東京五輪や防災関連のインフラ整備など大企業優先に使おうとしています。良い方に考えれば、企業の負担を軽くして企業のもうけを増やし、雇用や賃金の改善につなげて、家計を下支えしようということかもしれません。しかし、これまでも政府は様々な企業減税を行なってきましたが、減税分は株主配当や内部留保にまわり、雇用や賃金の改善にはつながりませんでした。企業減税分が企業価値を高める(内部留保を増やす・配当を増やす)ことに使われることは、当の安倍首相がよく知っているようで、9月25日にニューヨーク取引所で「日本に帰ったら直ちに成長戦略の次の矢を放つ。投資喚起のため大胆な減税を断行する」と演説し「バイマイアベノミクス」と見得を切ったのは、みなさんご存知のとおりです。

アメリカに無批判で追従する日本政府

 さて、本題のTPP交渉ですが、年内決着を目指したい米国の主導で、インドネシアで開かれているTPP首脳会議では、「大筋合意」をめぐって大詰めの交渉がおこなわれています。その一方、関税交渉は大幅に遅れており、二国間交渉を積み上げてから全体で議論するため実際の決着は越年が確実視されているようです。関税の撤廃が大きな目標であるにも関わらず、その関税の決着を待たずに何をもって「大筋合意」とするのか理解に苦しみます。いずれにしても、米国の都合が優先され、それに無批判で追随する日本の外交姿勢がここでも鮮明になっています。

貧富の格差がますます加速

 そもそも、FTAやTPPなどの二国間・多国間の経済協定や経済連携が行われるようになったのは、貿易に関する国際的機関であるGATT(関税および貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)の交渉では先進国と新興国との対立が激しく、話し合いがまとまらなかったことにあります。GATTの後を受けたWTOの交渉は、中断・再開を繰り返した結果「交渉を継続するものの、近い将来の妥結を断念する」という議長総括が行われ、事実上の停止状態となりました。WTOが暗礁に乗り上げたため、お互いの立場が理解できて合意しやすい2国間・少数国間のFTA(自由貿易)やEPA(経済連携協定)が結ばれるようになったのです。
 米国の多国籍企業は、FTAやEPAを利用して利益を最大限にすることを追求してきました。後から結ばれる協定ほど、前の協定よりも企業の利益が増すように研究され、その結果、米韓FTAやNAFTAでは、アメリカの多国籍企業が相手国の主権や法律、公共の福祉さえも凌駕して、自由に企業活動をおこなえるようになっています(このことから「超国家企業」と呼称)。そうして世界を舞台にして自由気ままに経済活動をおこなって得た利潤は、超国家企業の持ち主である株主に配当として分配されることになりますから、今でも1%が栄え99%が犠牲になっている状況が、TPPを契機にますます加速し、1%に富が集中することになります。

すべては超国家企業の利益を最大化する為に

 安倍首相は第183回国会の施政方針演説で、日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」にすると言いました。そして、今月提出予定の国家戦略特区関連法案に労働者の首切り自由の道を拓く「経済特区」があり、混合診療を自由に行える「医療特区」も含まれているようです。これらの「特区」がTPPの先取りであることは、もうお分かりのことと思います。TPP問題をはじめ原発再稼動、秘密保法、集団自衛権などの根源は、超国家企業の利益を最大化することにあると言っても過言ではないと思います。
 今こそ、圧倒的多数である99%が手を取り合うときではないでしょうか。相手は、地球規模で活動を展開する超国家企業群です。日本国内はもちろんのこと、世界の99%の人たちと結んで、超国家企業と対峙する必要があります。